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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)28号 判決

東京都港区赤坂三丁目3番5号

原告

富士ゼロックス株式会社

代表者代表取締役

宮原明

訴訟代理人弁理士

早川明

古部次郎

小田富士雄

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

鈴木朗

逸見輝雄

今野朗

伊藤三男

主文

特許庁が、平成5年審判第7519号事件について、平成6年11月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年7月2日、名称を「異方性導電フィルムおよびその製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭60-145294号)が、平成5年2月19日に拒絶査定を受けたので、同年4月22日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第7519号事件として審理したうえ、平成6年11月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年1月9日、原告に送達された。

2  本願特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨

二次元方向に規則的に配列せしめられた導電性パターンと、前記導電性パターン配列面の一方の面を全て覆うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材と、前記導電性パターン配列面の他方の面を全て覆う保護膜とを具備し、前記弾性部材および保護膜が、熱および圧力によって膜厚を減じ、前記導電性パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導通路を形成する部材で形成されていることを特徴とする異方性導電フィルム。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭54-126281号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び特開昭58-188076号公報(以下「引用例2」という。)に記載されたものに基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願の特許請求の範囲第2項に記載された発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものであるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願第1発明の要旨、引用例1及び2の記載事項(審決書3頁7行~4頁9行)については認め、本願第1発明と引用例発明1との一致点の認定は争う。相違点1及び2の認定は認めるが、これについての判断は争う。

審決は、本願第1発明と引用例発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点1及び2の判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本願第1発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り)

審決は、本願第1発明と引用例発明1との対比において、「引用例1のものは、圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターであるので、電気接続するとき絶縁エラストマー9の厚み方向に加圧されて電気的に接続されるものであるから、両者は、二次元方向に規則的に配列せしめられた導電性パターンと、前記導電性パターン配列面の一方の面を全て覆うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材と、前記導電性パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導通路を形成する部材で形成されている異方性導電フィルムである点で一致しており」(審決書4頁13行~5頁5行)と認定しているが、以下に述べるとおり、誤りである。

引用例1(甲第4号証)には、「本発明は、圧接挟持型導電性エラストマーコネクター・・・に好適とされる導電性エラストマー成形品の製造方法に関する」(同号証1頁右上欄2~5行)、「本発明の方法によつて最終的に得られる異方導電性エラストマー成形品」(同2頁右下欄6~8行)、「第5図に示すような目的とする導電性エラストマー成形品とすることができる」(同4頁左上欄14~16行)と記載されているから、引用例1における圧接挟持型の導電性エラストマーコネクターとは第5図に示すものである。

また、引用例1には、その製造方法として、「第3図に示すような導電性エラストマーシート13とされるから、このものは適当な長さに切断する」(同4頁左上欄3~5行)、「第4図に示すように、その導電性材料からなる凸条4”の配向方向を一致させた状態で積層一体化し、要すれば該積層体の導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設け、ついでその最終工程において積層一体化されたブロツク状成形体を凸条4”の配向方向にほゞ垂直な面に沿つてスライスすることにより、第5図に示すような目的とする導電性エラストマー成形品とすることができる」(同4頁左上欄7~16行)と記載されている。したがって、引用例1には、導電性材料の配列された面に平行な方向には、各導電性材料は互いに絶縁され、電気的接続を得る厚さ方向には導電性材料層4”の切断面がスライスにより露出することにより導電性であるところの、方向に応じて導電性を異にする、文字どおり異方導電性を有するエラストマーが示されている。なお、第3図の示される導電性エラストマーシート13や、第4図に示される積層体とは、引用例1の製造過程における中間生成物であって、電気的接続に用いられる異方導電性エラストマーではない。

そこで、本願の第1発明と引用例発明1(以下、上記第5図に示されたものをいう。)とを対比検討する。

まず、引用例発明1は、圧接挟持型の導電性エラストマーコネクターであるので、電気接続するとき絶縁エラストマー9の厚み方向に加圧されて電気接続されるものであるのに対し、本願第1発明では、接続すべき2枚の基板の電極パターン間に挟まれる点では相違ないものの、加熱及び加圧されて電気接続する点では相違する。すなわち、本願第1発明では、絶縁性フィルムは、単に加圧されるものではなく、加熱及び加圧されることにより、それ自身電極間の凹部に押し出される部材である。

次に、本願第1発明は、導電性パターン配列面の一方の面を全て覆うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材と、前記導電性パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導通路を形成する部材で形成されている異方性導電フィルムであるのに対し、引用例発明1では、導電性パターンとこの導電性パターン間に充填される絶縁性の弾性部材とで形成されるものの、導電性パターン配列面のいずれの面も絶縁性の弾性部材で覆われておらず、このため加圧のみによって電気的に接続されている点で相違する。

なお、審決は、引用例1の第3図及び第4図に関する記載を参照している(審決書3頁10行、15行)が、上記のとおり、これらは製造過程における中間生成物であって、電気的接続に用いられる異方導電性エラストマーではないから、本願第1発明との対比に用いることは失当である。

したがって、審決の一致点の認定は誤りである。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点の判断の誤り)

(1)  相違点1について

審決は、本願第1発明と引用例発明1との相違点1について、「異方性導電フィルムにおいて、導電性パターン配列面の他方の面を全て保護膜で覆うことは、当業者なら必要に応じて容易に実施することができることといわざるをえない」(審決書6頁10~14行)と判断しているが、誤りである。

引用例1には、前記のとおり、「該積層体の導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設け、ついでその最終工程において積層一体化されたブロツク状成形体を凸条4”の配向方向にほゞ垂直な面に沿つてスライスすることにより、第5図に示すような目的とする導電性エラストマー成形品とすることができる。」と記載され、異方導電性エラストマーの製造過程において、第4図においては、導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設けた中間生成物が示され、第5図においては、この絶縁性エラストマー層14がその一端を形成する完成品である導電性エラストマー成形品が示されるにすぎず、いずれも電気的接続を得るための異方性導電フィルムにおいて一面を保護膜で覆うものではない。

また、引用例発明1は厚み方向に押圧して使用されるものであるが、その厚み方向とは積層方向と垂直な方向であって、積層方向に押圧して使用されるものではない点で、審決の認定は誤りである。したがって、この誤った認定に基づき、「絶縁性エラストマー層14は、積層方向の最上部で露出している導電性材料層4”の他方の面をすべてを覆う保護膜に相当している」(審決書6頁3~6行)とした審決の認定もまた失当である。

次に、引用例2に記載された異方性導電型のゴムコネクターとは、導電性材料を一次元に所定のピッチで配列したものであって、導電性材料の配列された方向には、各導電性材料は互いに絶縁され、電気的接続を得るための導電性の得られる方向、すなわち第1図の紙面に垂直な方向には、プレス抜きにより金属箔2の切断面が露出することにより導電性であるところの異方導電性を有するゴムコネクターである。したがって、導電性パターンの配列面では金属箔2の切断面が露出し、すなわち表裏面ともに保護膜で覆われたものではない。このため、引用例2をいかに参酌しても、異方性導電フィルムにおいて、導電性パターン配列面の他方の面を全て保護膜で覆う必要性は何ら示唆されていない。

したがって、審決の相違点1についての上記判断は、誤りである。

(2)  相違点2について

審決は、本願第1発明と引用例発明1との相違点2について、「引用例のものにおいても、本願の第1の発明と同様に、加熱および圧力によって膜厚を減じ導通路を形成し得ることは、容易に期待できるところである。したがって、異方性導電型フイルムを電気接続するとき、熱および圧力によって、膜厚を減じ導電性パターンを介し異方性導電フイルムの厚さ方向に導電路を形成することは、当業者が容易に実施し得ることである。」(同7頁6~15行)と判断しているが、誤りである。

本願第1発明と引用例発明1には、共通の材料が記載されている。しかし、引用例1のコネクターとは、導電性部材の電気的接続を得るための部分が露出し、圧接挟持のみによって電気的な接続を達成するものである。また、引用例1には、電気的な接続を得るための圧接挟持において加熱を併用する記載もない。すなわち、本願第1発明のように、わざわざ加熱及び加圧によって絶縁性部材の膜厚を減じてはじめて導通路を形成するということを、何ら期待しうるものではない。

したがって、審決の相違点2についての上記判断は、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例1の第3図及び第4図のものは、コネクターの製造過程の部品であるので、第5図の完成された圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクター(引用例発明1)が本願第1発明と対比すべきものであることは認める。

特開昭58-23174号公報(乙第1号証)にもみられるように、一般的には、圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクタは、電気導電体金属粒子を一様に分散させた異方性導電膜である(同号証2頁右上欄8~11行)。この場合、そのコネクタがプリント回路基板などの一方の接続部と他方の接続部との間に挟持配置され、加圧されると、加圧方向に電気抵抗値が小さくなり、電気接続部が形成されるものである。引用例1の記載をみると、引用例発明1の個々の導電材料層4”は、上記一般の圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクタの個々の電気導電体粒子に対応するものである。したがって、引用例発明1においては、絶縁エラストマー層9の厚み方向に加圧されて電気接続されるのである。つまり、第5図において、紙面の上下方向に加圧されて、二次元方向に規則的に配列された導電性材料層4”を上下方向に接近させ電気抵抗値を小さくして、その結果、電気接続部が形成されるものである。

なお、原告は、本願第1発明の絶縁フィルムは、単に加圧されるのみでなく加熱及び加圧されることにより、それ自体電極間の凹部に押し出される部材であり、この点で引用例発明1と相違すると主張している。

しかし、本願特許請求の範囲第1項には、絶縁フィルムを加熱及び加圧されることにより、それ自体電極間の凹部に押し出す点の記載はないから、このような特許請求の範囲に記載のない事項を根拠として、引用例発明1との一致点に関する審決の認定を誤りとする原告の主張は失当である。

2  取消事由2について

(1)  相違点1について

前述のとおり、引用例発明1は、電気接続するとき絶縁エラストマー層9の厚み方向、つまり、第5図における紙面の上下方向に加圧されて電気接続部とされるものである。

そして、引用例1(甲第4号証)には、「積層体の導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設け」(同号証4頁左上欄10~11行)る点が記載されており、その絶縁性エラストマー層14は、導電性材料層4”の最上部の配列面、つまり導電性材料層4”の最下部の配列面に対して他方の面、をすべて覆っているから、本願第1発明の保護膜に相当すると認められる。

相違点1についての判断に誤りはない。

(2)  相違点2について

本願第1発明では、加熱及び加圧されて電気接続する点に関して、弾性部材及び保護膜は、単に加圧されるものでなく、「熱および圧力によって膜厚を減じ、導電パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導電路を形成する部材」としている。

本願第1発明における、弾性部材及び保護膜が上記のように熱及び圧力によって膜厚を減じる部材であることは、引用例1には具体的に記載されてはいない。しかし、加圧のみならず、更に加熱することによって、フィルム状、シート状の電気絶縁膜の膜厚を確実に減じることは、例えば、特開昭58-23174号公報(乙第1号証)にもみられる(同号証3頁右上欄8~10行)ように、異方性導電型のフィルムコネクタの接続時において電気接続部を形成するための周知の技術であるから、引用例1のものにおいて本願第1発明のように、弾性部材及び保護膜が熱及び圧力によって膜厚を減じ、導電性パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導電路を形成することは、当業者が容易に想到しうることである。

相違点2についての判断に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(本願第1発明と引用例発明1との一致点の認定の誤り)について

本願第1発明と対比すべき引用例発明1は、引用例1の図面第5図に記載されている完成した圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターであり、同第3図及び第4図のものは、コネクターの製造過程の部品であることは、当事者間に争いがない。

審決は、本願第1発明と引用例発明1とは、「導電性パターンを介して異方性導電フイルムの厚さ方向に導通路を形成する部材で形成されている異方性導電フイルムである点で一致しており」(審決書5頁2~5行)と認定し、この点に関し、相違点1の判断において、「引用例1の圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターは、電気接続において絶縁エラストマー9の厚み方向つまり積層方向に押圧して使用されるものである」として、導通路が形成される異方性導電フィルムの厚さ方向とは、「積層方向」、すなわち、被告主張のように、引用例1の第5図において、紙面の上下方向であると認定していると認められる。

しかし、米国特許第3982320号明細書(甲第6号証及び特開昭52-29958号公報(甲第7号証)によれば、圧接挟持型導電性エラストマーコネクタとは、挟持されることによりシートの厚さ方向に加圧されて、その表裏面の間で電気接続されるものであると認められるから、圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターである引用例発明1は、その厚さ方向、すなわち、同第5図において、紙面と垂直な方向に加圧されて電気接続が形成されるものと認めなければならない。

したがって、審決の厚み方向の認定は誤りであり、この誤りを前提とした審決の上記一致点の認定もまた、誤りというほかはない。

被告は、この点につき、特開昭58-23174号公報(乙第1号証)を挙げて、審決の上記認定の根拠とするが、同公報記載の発明は、「加熱、加圧下に塑性流動する接着性有機高分子物質と、少なくともその表面が加熱により溶融ないし焼結状態となって被接続電極面に融着する金属粒子との混合物を、フイルムないしシート状に成形してなることを特徴とするコネクタ」(同号証特許請求の範囲)であり、その発明の詳細な説明をみれば、その発明が接着型コネクタに係る発明であることは明らかであり、その「第1図は本発明になるコネクタの基本的形態を例示してなるものであつて、これは接着性有機高分子物質1と金属粒子2との混合物をシート状に成形した」(同2頁右上欄8~11行)、「前記有機高分子物質に配合される金属粒子は・・・半田合金、あるいはアルミニウム合金、錫などとされる」(同2頁右下欄9~15行)、「第1図に示すようなコネクタ3を用いて被接続端子電極間を接続するには、・・・加圧下に該基板のいずれか一方の背面に熱いこてなどを当接して直接加熱するか、あるいは高周波加熱、超音波加熱を施すのである。そうすると・・・やがて高分子物質の大部分が軟化流動すると共に、対向電極間に存在する金属粒子群が溶融一体化ないしは連鎖一体化し、対向電極間を導通状態とするようになる。」(同3頁右上欄3行~左下欄1行)との記載によれば、ここにいう導電性の粒子とは、接着型コネクタを前提にして、そのコネクタ全体に一様に分散されて絶縁状態に保持された金属粒子群をいうのであって、加圧及び加熱をし、その結果、溶融一体化ないしは連鎖一体化してはじめて対向電極間の導通状態を形成するものであると認められ、そのほかに、接着型とは異なる圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクタに関するものであるとも、また、広い意味でコネクター般に関するものであるとも、いずれの記載もないことが認められる。

一方、引用例発明1は、引用例1(甲第4号証)の第5図に示すとおり、電気絶縁性エラストマーに導電性材料層4”をマトリクス(行列)状に配置したものであり、導電性材料層4”は、「導電牲材料としては、ポリ塩化ビニル・・・などに、カーボンブラツク、金属粉末あるいはグラフアイトなどの導電性付与剤の一種または二種以上を配合してなるもの」(同号証2頁左下欄5~12行)である。すなわち、引用例1の導電性材料層4”とは、合成樹脂等に金属粉末を配合してなる導電性材料であり、溶融一体化ないしは連鎖一体化によりはじめて導通状態を形成するものではない。

したがって、引用例1の導電性材料層4”と上記公報(乙第1号証)に記載された電気導電体粒子とは、導通状態の形成機構を異にし、両者が対応するものとはいえないから、被告主張のように、同公報の記載を前提に引用例発明1を解釈することはできない。

結局、被告の上記主張は、上記公報記載の接着型コネクタと引用例発明1の圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターとを区別せず、その結果、導通の方向及び導通路形成の差異を看過したものであり、失当である。

さらに、引用例発明1は、前示第5図の示すとおり、スライスされることにより導電性材料が露出し、導電性パターン配列面のいずれの面も絶縁性の弾性部材で覆われていないものであると認められるから、本願第1発明と引用例発明1とが「導電性パターン配列面の一方の面を全て揮うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材」(審決書4頁19行~5頁1行)を備える点で一致するとした審決の認定も誤りである。

そうである以上、審決がいうように、「引用例のものにおいても、本願の第1の発明と同様に、加熱および圧力によって膜厚を減じ導通路を形成し得ることは、容易に期待できるところである」(同7頁6~10行)と直ちにいうことはできず、これを前提にして、「異方性導電型フイルムを電気接続するとき、熱および圧力によって膜厚を減じ導電性パターンを介し異方性導電フイルムの厚さ方向に導電路を形成することは、当業者が容易に実施し得ることである。」(同7頁11~15行)ということもできないから、上記認定の誤りが本願第1発明の進歩性の判断に影響を及ぼすことは明らかである。

よって、取消事由1は理由がある。

2  以上によれば、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官押切瞳は転補のため、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 牧野利秋)

平成5年審判第7519号

審決

東京都港区赤坂3丁目3番5号

請求人 富士ゼロックス株式会社

東京都中央区銀座二丁目11番2号 銀座大作ビル6階 木村内外国特許事務所

代理人弁理士 木村高久

昭和60年特許願第145294号「異方性導電フィルムおよびその製造方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年1月12日出願公開、特開昭62-5845)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続き経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和60年7月2日に出願されたものであって、その発明の要旨は、平成5年1月8日付きの手続補正書および平成6年7月8日付きの手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項および第2項に記載されたとおりの「異方性導電フイルムおよびその製造方法」にあるものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下、「第1の発明」という。)は、次のとおりである。

「二次元方向に規則的に配列せしめられた導電性パターンと

前記導電性パターン配列面の一方の面を全て覆うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材と

前記導電性パターン配列面の他方の面を全て覆う保護膜とを具備し、

前記弾性部材および保護膜が、熱および圧力によって膜厚を減じ、前記導電性パターンを介して異方性導電フィルムの厚さ方向に導通路を形成する部材で形成されていることを特徴とする異方性導電フィルム。」

(当審の拒絶理由)

当審において平成6年4月11日付けで通知した拒絶の理由で引用した特開昭54-126281号公報(以下、「引用例1」という。)には、圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターにおいて、第3図を参照すると、2次元方向に規則的に配列せしめられた凸状の導電性材料層4”とその凸状の導電性材料層4”の一方の面を全て覆うとともにその間に充填された絶縁性ニラストマー9とを具備する導電性エラストマシート13’が記載され、また第4図、第5図を参照すると、導電性エラストマーシート13’を複数枚積層し、その積層方向て導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設けること、および、絶縁性エラストマー9の材料としてゴム弾性挙動を示す各種の合成樹脂あるいはゴム類などをあげることができ、具体的には、ポリプロピレン、ポリエステルなどが記載されている。

また、拒絶の理由で引用した特開昭58-188076号公報(以下、「引用例2」という。)には、平行に配列された微細ピッチの金属箔1の両面を絶縁ゴムシート2でサンドイツチして埋込みした異方性微細導電ゴムコネクターが記載されている。

(対比)

本願の第1の発明と引用例1に記載されたものと対比する。

引用例1のものは、圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターであるので、電気接続するとき絶縁エラストマー9の厚み方向に加圧されて電気的に接続されるものであるから、両者は、二次元方向に規則的に配列せしめられた導電性パターンと

前記導電性パターン配列面の一方の面を全て覆うと共にパターン間に充填された絶縁性の弾性部材と

前記導電性パターンを介して異方性導電フイルムの厚さ方向に導通路を形成する部材て形成されている異方性導電フイルムてある点で一致しており、

1 本願の第1の発明は、導電性パターン配列面の他方の面を全て覆う保護膜を具備しているのに対し、引用例1には、これについて記載されていない点、

2 本願の第1の発明は、弾性部材および保護膜が熱および圧力によって膜厚を減じるのに対し、引用例1には、これについて記載されていない点で相違している。

(当審の判断)

相違点1について

引用例1の第4図、第5図には、複数個の絶縁性エラストマー9を積層一体化し、その導電性材料層4”が露出している表面に絶縁性エラストマー層14を設けることが記載され、この引用例1の圧接挟持型の異方導電性エラストマーコネクターは、電気接続において絶縁エラストマー9の厚み方向つまり積層方向に押圧して使用されるものであるから、この絶縁性エラストマー層14は、積層方向の最上部で露出している導電性材料層4”の他方の面をすべてを覆う保護膜に相当している。

また、この点に関し、引用例2のものでは、導電体である金属箔1の両面に、絶縁ゴムシート2をサンドイッチした異方性導電型のゴムコネクタが記載されていることも参酌すれば、異方性導電フィルムにおいて、導電性パターン配列面の他方の面を全て保護膜で覆うことは、当業者なら必要に応じて容易に実施することができることといわざるをえない。

相違点2について

本願の第1の発明では、実施例に絶縁性の弾性部材の材料として、ポリェステル、ポリプロピレンなどを用いており、また保護膜は、この絶縁性の弾性部材と同様なポリェステル、ポリプロピレンなどの材料を用いていると認められる。

したがって、このようにみると、引用例1の絶縁エラストマーおよび絶縁性エラストマー層の材料は、本願の第1発明の絶縁性の弾性部材および保護膜の材料であるポリエステル、ポリプロピレンなどと共通しているところから、引用例のものにおいても、本願の第1の発明と同様に、加熱および圧力によって膜厚を減じ導通路を形成し得ることは、容易に期待できるところである。

したがって、異方性導電型フイルムを電気接続するとき、熱および圧力によって膜厚を減じ導電性パターンを介し異方性導電フイルムの厚さ方向に導電路を形成することは、当業者が容易に実施し得ることである。

(むすび)

以上のとおりてあるから、結局、本願の第1の発明は、引用例1および引用例2に記載されたものに基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願の特許請求の範囲の第2項に記載された発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものてある。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年11月10日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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